「DXC-537」だ。DXC-537はソニーの業務用ビデオキャメラで1991年に発売された。それまでの業務用キャメラといえば真空管式のDXC-M3やCCD撮像素子のDXC-3000、DXC-M7といったキャメラ単体で使用するスタンドアローンタイプだったが、DXC-537で初めてVTRと一体化が可能なセパレートタイプになった。
当時放送用のベーターカムVTRといえば千里ビデオサービスに今も現存するPVP-70+BVV-5やBVW-300/400といったものだったが、DXC-537と同時発売されたベーターカムVTRのPVV-1を一体化することで、放送用一体型ベーターカムなら700万円以上するものを業務用として200万円程度の費用で導入を可能にした。おかげでそれまで3/4吋Uマチックが中心だった企業ビデオやブライダル等の業務用市場は一気にベーターカムSPが中心になっていった。ただし価格とデザインは常に比例するようで、DXC-537とPVV1を一体化したズングリしたスタイルを決して良いと言えないことも確かだ。
DXC-537のキャメラ性能は、放送用には適わない(放送用はFIT=フレーム・インターライン・トランスファー型CCDを使用し、業務用はIT=インターライン・トランスファー型CCDを使用)ものの、放送用がオキサイドテープを使用した程度の画質を、メタルテープ専用とすることで実現できた。また、真空管時代のコントローラーCCU-M3なども流用できたため、新規にCCU-M7などを購入せずにEFPシステムを構築できた。
笹邊も10数年前にはDXC-537とCCU-M3などを使用したシステムを何度か構築したことがあるが、その後CCUはM7になり、以降CCU-M5へ変わっていった。CCU-M7以降はキャメラケーブルが14Pinから26Pinになり、ケーブル重量も倍ほどに重くなった。機能は限定されるものの、今も14Pinケーブルの軽くしなやかな感触は忘れられない。
DXC-537の基本スタイルは後に発売されたDXC-637やDXC-D30/35/50など、今なおソニーの業務用キャメラに引き継がれるほどの優れたスタイルだが、DXC-537も今となっては過去の遺物になってしまった。オークションに詳しいT氏によると、最近ではDXC-537やDXC-537A/DXC-537Mなどが5万前後で取引されているそうだ。安いと言えば安いのだが、生産中止後15年にもなるテレビキャメラがいまだに廃棄されず、アマチュアの間で取引されているということは物凄いことではないだろうか。
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